2019年08月01日

【限定重版】夏の約束

2000年。ポスト「J文学」の空気の中で、「当事者」による新感覚のマイノリティ文学2作が講談社から刊行され、大きな文学賞を受賞した。ひとつは在日コリアンの高校生活を躍動的に描いて直木賞を受賞した金城一紀の『GO』。もうひとつが本作、セクシュアル・マイノリティの日常を朗らかに描いて芥川賞を受賞した藤野千夜『夏の約束』である。いずれもリーダビリティの高さ、世代交代を感じさせる価値観と言語感覚が、新しかった。

当時はまだ「LGBT」のような総称はなく、芥川賞の選評でも「ホモ」という単語が使われる時代だった。三浦哲郎が「一見、無造作に楽々と書かれたような平明な文章が、よく読んでみると注意深く選んだ言葉でしっかり編まれていて味わい深い」と高く評価し、田久保英夫は「ホモの人たち同士の、あるいは私たち外側の人間への、一脈ぎくっとするような毒気も出ていいはずではないか」と指摘した。

レインボーパレードが珍しいものではなくなり、公党が同性婚の制度化を選挙公約にするほどにセクシュアル・マイノリティの存在が可視化され、ダイバーシティが日常語として使われるようになった現在、日本文学の先駆的な表現を今一度共有したいと思ったが、2003年に文庫化された『夏の約束』は、ここ数年の間、品切になったままだった。今こそ重版を。講談社に一括仕入を申し入れ、再び書店の店頭で販売できるようになった。

この小説は、軽やかでなければならなかった。作家の技術が、それを可能にした。切実だから、軽い。いま読んでも全く色褪せない、青春小説の傑作である。

夏の約束
藤野千夜 著
講談社
本体448円

野上由人
商品部長

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