2019年07月23日

落としもの

2000年、横田創は(世界記録)で群像新人文学賞を受賞してデビューした。当時30歳。タイトルに( )が付いていて目を引いた。翌年発表の第二作裸のカフェ」で三島由紀夫賞にノミネートされている。講談社から2冊の単行本を刊行。新人の滑り出しとしては順調に見えた。しかしその後、『群像』『新潮』『すばる』等の文芸誌に作品を発表するものの、しばらく単行本にならなかった。2010年、早川書房の叢書〈想像力の文学〉で『埋葬』を発表するも、それが最後の単行本になっていた。

(世界記録)当時、私は書店員として文芸書を担当していたこともあり、新人作品を好んで読んでいた。1997年の岡崎祥久『秒速10センチの越冬』や、2002年の角田光代『エコノミカル・パレス』等といっしょに「講談社系ネオ・プロレタリア小説」と勝手に括って認識していた。次の作品が楽しみな作家だった。

しかし、最近はすっかり忘れていた。書肆汽水域の北田博充氏から連絡を受けたとき、その作家名に懐かしささえ覚えた。連絡の内容は、横田創の単行本未収録短編集を作る。本の裏表紙に推薦コメントを載せたいので書いてほしいというものだった。なぜ私に? 驚くべきことに、「横田創+書店員」で検索したところ、私の名前が出てきたというのだ。確かめてみた。本の雑誌社のウェブサイトに私が書いた短文の中に、2002年の年頭に「今年読みたい本」として横田創の名前を挙げている、ただそれだけの文章だった。

北田氏からゲラを預かり、久しぶりにこの作家の文章を読んだ。すっかり忘れていたことが申し訳ないのだが、これは紛れもなく好きな作家の言葉だとすぐに馴染んだ。大袈裟なところがなく、平温で、それでいてリズミカルに続く描写の中に、ときどきドキリとする言葉が挿し挟まれる。作家の思想が細部まで行き届き、ごまかしがない。山崎ナオコーラや、最近でいえば滝口悠生の好きな人には、まず薦めたい。また、ここに収められた短篇はすべて女性視点の作品で、ジェンダーには相当に意識的に書かれている。やわらかくも闘争的。そのような作品が新興の出版社によって再評価され、本になったことをうれしく思う。

落としもの
横田創 著
書肆汽水域
本体1,800円

野上由人

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