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2020年12月16日

イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由

わたしはコーヒーが苦手でした
いつも紅茶をのんでいました

20代のはじめでしょうか
京都に行った折に
三条通りの円いカウンターがある
イノダコーヒという老舗に
入りました

大人の雰囲気のお店で
ずいぶん緊張したのを覚えています

カウンターに座って

ここで
コーヒー以外のものを頼む勇気はないよ!

とおもい
お砂糖ミルク入りのコーヒーを
頼みました

その円いカウンターのなかで
リズミカルな動きでコーヒーを淹れる年配の
お店の方がいらして
まるで映画のなかの
チャップリンの所作みたいだなあ
とおもってみていました

そのときはお名前を知りませんでしたが
それがイノダアキオさんでした

この本を読んで
そうかあの姿は
お店を引退される少し前だったんだなあ

あのチャップリンのような
無駄がなく でもみていてどこか
うれしくなるような動きは
日々の積み重ねの姿だったのだなあ
とおもいました

そのカウンターに座っていたある日
カウンターのなかで
イノダアキオさんが
入り口の方をみやって

あ けんさんや

と言われました

えーと けんさんて?

とおもって
ふりかえってみると

映画でみたことのある
背の高いおとこの方が
キャップをかぶって
すっとこちらに
歩いて来られました

カウンターにいた
お客さんもみんな
そうだったとおもいますが
ものすごくびっくりしました

その方は
お連れの方と
カウンターに座って話しながら
コーヒーを飲まれていました

わたしは
あんまりじろじろみないように
気をつけていましたが
ほかのお客さんも
みんな知らん顔されていて
声をかけることはありませんでした

その方が席を立って
ドアのところに歩いていかれたとき
さすがに
みんなそちらを向きました

そうしたら
その映画スターの方は
ふりかえって
キャップをとって
ていねいにおじきをして
帰ってゆかれました

そのあと
お店の空気が
ほーっとゆるんだのが
はっきり感じられました

そうして
ああそうなんだ
みんな緊張してたんだなあ
ってわかりました

コーヒーも大事だけど
お店の雰囲気も大事だ
とこの本のなかにあるのを読んだとき
そのときのことが
うかびました

その映画スターの方も
イノダのコーヒーがスキで
コーヒーを楽しまれている時間を
じゃましないようにしよう
とそこに居合わせたみんなが
(たぶん)おもったこと

そういうお店をイノダアキオさんは
つくりあげていらしたのだなあ
って あらためておもいました

コーヒーがお好きでも
そうでなくても
京都のお店に
まだ足を踏み入れたことがなくても
読んでいて
しみじみと胸に響く
イノダアキオさんのお話です

イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由
猪田 彰郎
アノニマ・スタジオ
本体1,500円

山口 敦子
リブロ 新大阪店

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